地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#28 人工衛星で地球の重力を調べる

Q28.

 

人工衛星を使って地球の重力がわかるということを聞いたことがあるのですが、ほんとうですか。QA22などで説明のあったGPSのように、地球の位置が分かるというのはなんとなく理解できるのですが、重力がわかるというのはどういうことでしょう。

A28.

 
人工衛星は、なぜ地球のまわりを回るのでしょうか。それは地球に引力があるからです。地球に引力がなければ、人工衛星は地球のまわりを回らず、はるかかなたの宇宙の果てまで飛んでいってしまいます。つまり、人工衛星は地球の引力に引かれて地球のまわりを回っているのです。だから人工衛星の飛び方を調べれば、地球の引力が分かることになります。地球の重力は、地球の引力と自転の遠心力の合力です。自転の遠心力についてはよくわかっていますので、あと引力がわかれば、重力がわかるわけです。
 
人工衛星は、地球や多くの惑星が太陽のまわりを回るのと同じ原理で、地球のまわりを回っています。17世紀の初頭、ヨハネス・ケプラーが、25年にわたるティコ・ブラーエの観測データを整理し、「ケプラーの法則」と呼ばれる惑星の運動の基本的な法則を発見しました。ケプラーが発見した惑星の運動の法則は3つありますが、そのひとつが、「惑星は太陽をひとつの焦点とする楕円運動をする」というものです。
 
太陽をひとつの焦点とする、という意味がよくわからないかもしれません。
 
楕円の描き方を知っていますか。まず、適当な長さの糸を1本用意します。そして2本の針を紙の上に立てます。このとき、針の間隔は、糸の長さより短くしておきましょう。ここで、糸のそれぞれの端を、2本の針それぞれに止めつけます。糸がぴんと張って三角形の2辺ができるように、糸の中間あたりに鉛筆の先を差し込んでください。そしてそのまま、糸がたるまないように、そして糸が針にからまないように鉛筆をスライドしていけば、ほら、できた。楕円が描けるのです。
 
ですから、楕円上の点から2本の針までの距離を考えると、それらの和はある一定の値(糸の全長そのもの)になっています。この、針を立てた2点を焦点と呼びます。このように、楕円には焦点が2つありますが、惑星の軌道ではこのうちの片方に太陽があるということです。
 
17世紀後半になると、アイザック・ニュートンが現われ、ケプラーの法則から、太陽と惑星の間には距離の2乗に反比例する力がはたらいているということを導き出しました。これが万有引力と呼ばれるもので、重力のおおもとです。
 
人工衛星も、基本的には惑星と同じように楕円運動をします。焦点には太陽の代わりに地球の重心が位置します。ただしこれは地球が完全な球形で、人工衛星に働く力が地球の重心からの距離の2乗に反比例している場合です。でも、実際の地球は完全な球形ではありません。そのため、人工衛星にはたらいている力は、地球の重心からの距離の2乗に反比例する力から少しずれており、そのため、人工衛星の軌道も楕円から少しずれています。このずれを調べることにより、地球の引力が地球の重心からの距離の2乗に反比例する力からどれだけずれているのかを調べることができます。これが人工衛星から地球の重力を調べることができる理由です。
 
このような方法で、人工衛星の軌道を調べて地球の重力の分布を求める観測は、以前から行われていたのですが、人工衛星の軌道は、地上から観測したデータを基に決めるしかありませんでした。しかし、現在ではGPS受信機を人工衛星に積んでおくと、従来の地球からの観測よりずっと精度よく人工衛星の軌道を決めることができます。
 
このような考えに立って、20007月にドイツは、CHAMPという衛星を打ち上げました。これは高度が450kmを航行しますが、その軌道は衛星に搭載したGPS受信機を使って精度良く求めることができます。こうして得られた軌道の分析から、精密な重力の分布が求められるのです。これは地球のまわりを回るCHAMP衛星が、地球を回りながら地球の引力により連続的に自由落下しているのを測定しているといってもいいでしょう。
 
さらに20023月には、高度500kmに1対の双子衛星が打ち上げられました。、GRACEと呼ばれ、GPSでそれぞれの軌道を決めるだけではなく、お互いの間隔の伸縮を、電波を使って精密に測定しています。2機の衛星が飛んでいる間の地域の重力が大きいと、先行する衛星は後ろに引っ張られて速度が遅くなり、後続の衛星は前に引っ張られて速くなって、2機の距離が短くなります(図28-1)。逆に重力の小さいところだと、前の衛星の速度が速くなり、後ろが遅くなって間隔が伸びます。このように、2つの衛星の間隔を分析することによって、地上の重力が求められるのです。
 
さらには、GOCEといって、重力偏差計と呼ばれる、重力の傾きを測る計器を乗せた人工衛星を打ち上げ、より詳細な重力の変化を調べる計画もあります。
 
このような観測によって、いままでの人工衛星を使った重力の測定にくらべて精度が格段に上がり、また、地上の重力測定にくらべれば、はるかに広範囲に精度の高い重力値が得られるため、地球規模での重力の時間変化が得られると期待されています。
 
でも、地球規模の重力の時間変化を調べて、いったいなんの役に立つのでしょう?実は、現在、さまざまな分野の人たちが、この重力の時間変化の情報を期待しています。特に、海洋学、気象学や水文学といった流体分野の地球科学の人たちからの期待が大きいようです。
 
たとえば、海洋変動。みなさんもよくご存知のように、二酸化炭素の増加による地球温暖化のため、南極の氷山やヒマラヤの氷河などが融けて、海面が上昇するのではないかと心配されています。いずれも、重力の源となる氷や水の移動を伴いますから、場所によって重力が少しずつ変化するはずです。逆に、重力の変化の様子を詳しく調べれば、氷や水の移動の様子がわかるのです。同じように、大きなダムの貯水量や湖の水位変化、地下水の汲み上げによる地下水位変化、さらには水田に導かれた水の量までも、重力の変化から分かるのではないかと期待されています。
 
学問は、それぞれの分野の個別化、専門化が進んでいるといわれています。しかし、測定精度が上がると、いままではあまり関係ないとされていた学問分野(たとえば、陸水学、氷河学、測地学)の間に、新しいつながりができるものです。このような学問の総合化に測地学が役立つとしたら、測地学を研究しているひとりとして、とても嬉しいことです。


図28-1
GRACE衛星の想像図。双子衛星の間隔を測る。重力の強い地域の上を飛ぶと、先行する衛星は後ろ髪を引かれ、後続する衛星は前方に引き寄せられるので、間隔が狭まる。間隔の伸び縮みを電波を使って測れば、重力の強弱が推定できる。(想像図はテキサス大学オースチン校スペース研究センター提供)