025.各国における高さシステムの現況
2001年2月


1.はじめに
 2001年2月、コロンビアのカタヘナというところでIAGシンポジュウムの一つであるVertical Reference System(垂直基準系)が開催される。
 これは測地系のうち、精密経緯度の実現がITRFやWGS84の実用化によって解決されているのに対し、正標高に代表される高さシステムについては、世界水準原点の確立など未だ国際的な統一をみない現状に鑑み、各国の取り組みを紹介し合って解決の方向を見いだそうという試みである。提出予定の論文の要旨は既にインターネットで流れており、誰にでも公開されている。
 要旨は、それぞれの国の高さシステムの現況を与えているもの、各国の高さ基準の比較を論じているもの、新しい動的な水準網平均、国際的な統一高さシステムの基礎理論に関したもの、などに分けられるが、ここではその主なものを紹介し、各国の高さシステムの問題の現況と解決の方向を見てみることにする。
2.各国の高さシステムの現況
ヨーロッパ
今までは中央ヨーロッパの高さの基準値はUELN(ヨーロッパ統一水準網)であった。これは古典的な水準測量と潮位観測を基礎データとしたものである。今はGPSによるEUVN(統一ヨーロッパ垂直網)である。チェコスロバキアの動的水準網の例で、UELNとEUVNの比較が与えられている。

カナダ
カナダ天然資源局の測地局(GSD)の使命の一つは、カナダの高さ基準の保持と改良である。カナダは広大な地域を占めていて、精密水準の観測は少ない。それで宇宙技術を取り入れて、現代的な高さシステムを作ろうとしている。水準点でのGPSや水準測量結果とジオイドモデルを組み合わせる。

中国
今まで使われたことのある水準原点は;
Dalin大連,Dagu大沽(天津のちかく),Wusong,Kanmen関門,Luoxingta,Yulin,Xiuying
などであった。中国の新彊地域ではバルチック海原点さえもが使われた。このように中国の高さシステムは各地域ごとにまちまちであった。現在では、1985年に1952年より1979年までの青島検潮所による黄海の平均海水面を決定し、これを高さの基準として採用し、その後これをつかっている。全国の90,000km以上の一等水準点はこれに準拠している。基準面は準ジオイド(モロデンスキー定義の)である。過去には高度異常(モロデンスキー定義のHeight anomaly)は天文・重力学的方法で決められていた。準ジオイドの精度は中国の東部で0.3mの精度であり、西部で0.5mである。局部的にはcmレベルの準ジオイドとなっている。

インドネシア
17,000の島を含む最大の島国として水準原点の統一は最大の要件である。統一原点はまだないが、これはこの国の地理学的な条件にもよる。ジオイドの問題が大切なので、この確立を図っている。

オーストラリア
ジオイドについてはAUSGeoid98が出来ている。これとGPSの結果をつかって高さを出すことができる。また1,013点のオーストラリヤ原点(AHD)に準拠した高さを使い、大陸側の水準原点とタスマニヤ島の水準原点の高さの差を評価した。タスマニヤ島の原点が大陸原点より(26±33)〜(12±12)だけ低い。この数値は海面形状のデータと合う。この差の生じた理由は、AHDに準拠した網平均の時に多数の潮位観測による平均海水面を固定したことによる。将来は国際的な水準原点に統一しなくてはならない。このためにどの点を国際原点に結合するかを決定することが第一の課題である。

ブラジル
ブラジルの高さの網は伝統的な水準測量によって、1945年にスタートした。現在、65,000点が全国をカバーしている。アマゾン流域は別である。Imbituba原点は1949〜1957年間の潮位観測によって決定されたものである。1991年まで水準点での重力観測はされていないので、正規重力式による正標高である。これを正標高と言っている。
3.キネマティックモデル
 水準測量は時間のかかる作業で、広域の測量では、ときに数10年もかかって観測終了となる。この間水準点が動かないと仮定することは現実的ではない。オランダでもこのことが問題となり、1926年〜2000年間の観測を水準点の時間変化も考えた網平均で実施している。
 スイスの古い高さシステム(LNO2)は新しい正標高の高さシステム(LHN95)に置き換えられている。アルプスの隆起を考えてキネマティックの網としている。LHN95のうち100はGPS網LV95と結合している。網平均にはGPSとジオイドの情報も含まれる。LHN95の最初の結果を報告する。
4.アルチメーターによる高さ基準の比較
 各国の水準原点は、そのときに採用した平均海面のジオイドよりのずれの分だけの定誤差をもつ。海水面の凸凹の知識が大切である。この知識を得る手段としてアルチメーター観測がある。アルチメーターは人工衛星よりみた海面までの距離を決定するので、軌道を固定すれば、海面形状を与える。
Geosat(1985年3月打ち上げのドップラー観測衛星),ERS(European Remote Sensing Satellite 1991年打ち上げ)-1,ERS-2,Topex/Poseidon(1992年NASAとFrenchSpace Agencyの共同打ち上げ)などによるアルチメーター海面形状(高さ)をバルチック海の南部海岸での検潮結果と比較した。この結果を与える。また北大西洋のEVAMARIA計画について述べる。この計画は海面形状の低周波の異常を検出することを目的としたものである。8年間のTopex/Poseidonによるアルチメーター観測を解析し、潮位観測と比較した。こうして海面形状を出した結果が与えられる。
5.国際高さ基準統一の基礎理論
 国際高さシステムの実現の方法としては二つの方法が考えられる。

(1)W0を基準重力ポテンシャルとして採用し、これに局所原点を関係づける。W0は平均海水面と一致するものを選ぶ。
(2)世界高さ原点としてi番目の局所原点を選びここのW0を国際高さシステムにかかわる数値として採用する。NAVD88の重力ポテンシャルである(W0)NAVD88、またはNAP重力ポテンシャルである(W0)NAP、などがそのような例であろう。

 同じ局所原点に準拠したGPS/水準(モロデンスキー正規高または重力ポテンシャル数)やEGM96として採用されているGM,ω,J2などが必要なデータであろう。
6.まとめ
 以上をまとめてみると次のような動向が伺える。
@伝統的な水準測量と潮位観測に立脚した高さシステムもまだその任を終えていない。
Aこれからの水準網の平均計算は水準点の時間変化を考えに入れたダイナミック網平均であるべきである。
B各原点の依拠している平均海水面はジオイドより数10cmのオーダーでずれている。この差を作っているのは海面の起伏の問題であり、この海面形状の把握には衛星のアルチメーター観測が直接的で、重要である。
C水準点の上のGPS観測の実施など宇宙技術の利用は不可欠である。
D国際統一高さシステムをつくる上で重力ポテンシャルW0が基準となるべきであろう。ここから出発してどのように国際統一高さシステムを作っていくか、なお検討を要する。