028.オーストラリアの新しい高さ基準とジオイドモデル
2001年9月


1.はじめに
 現在、各国の高さシステムは、水準原点において局地的な平均海水面に立脚した高さ基準を与え、ここから出発して水準測量によってつぎつぎと各点の標高を決めていくという方式となっている。しかし、最近では、水準原点で実現されているそれぞれの国の高さ基準はお互いに数10cm以上のオーダーの食い違いが存在することが分かってきている。
 このような状況のもとでどのようにしたら国際的に統一された高さ基準を確保できるか、これは現代の測地学の大きな課題である。この問題を検討するときに、宇宙測地学の最近の進歩による世界測地系の確立、また理論的な面での物理測地学の進歩を背景に議論がなされるべきは当然である。この方向で、いままでにも数多くの研究がなされてきたが、2001年9月にハンガリーのブタペストで開催された国際測地学協会の学術総会2001では、ようやく問題解決の方向を与える報告がいくつか提出され、打開の方策が見えてきたのである。すなわち、各国が立脚してきた基準面である平均海水面はいわゆる海面形状があまりにも複雑で起伏もおおきく高い精度是の決定は望みがたく、とてもこのような局所平均海水面を更正して国際的に統一することは無理であることがはっきりしてきた。そして水準楕円体のうえの正規ポテンシャルU0と一致する重力ポテンシャルW0をもつ等ポテンシャル面をもって高さの基準とする考えが台頭してきている。
 オーストラリアにおける新しい高さ基準の研究は、解決の方向を見出していると評価できる論文の一つである。本稿では、上記の国際測地学協会のブタペスト学術総会に提出された文献
W.E.Featherstne:Prospects for the Austrian Height Datum and Geoid Model
によりながら、オーストラリアの新しい高さ基準制定の経過を紹介する。
2.オーストラリアの高さ基準の問題点
 現行のオーストラリアの高さ基準(Austraria Height Datum,AHD)は1971年に制定された。それ以前にはオーストラリアには単一の高さ基準は存在していなかった。このAHDの実現のために、本国の97,000kmに及ぶ水準測量結果を平均したが、この際に30の検潮場の結果を高さゼロを与える拘束点として採用した。
 離島であるタスマニアは特別な取り扱いで1979年に水準網が平均され、1983年にAHD(Tasmania)となった。これらのAHDの決定に際して正標高を計算するのに実際の重力値ではなく正規重力値をつかった。これによる誤差は、オーストラリアのような大陸的規模の水準網の場合には、約1mにも及ぶことも分かってきた。またAHD(Australian Mainland)とAHD(Tasmania)との間には二つの高さの基準面の違いのために、0.2mの食い違いがあることも分かった。
 AHDは地球の一つの等ポテンシャル面に立脚はしていないので、オーストラリアのジオイドモデルによるジオイド高と[GPS-AHD]のデータ(すなわちAHDの与える正標高とGPSの与える楕円体高の差によるジオイド高)の間にも矛盾が存在することとなる。すなわち、ジオイド高は一つの地球楕円体よりの高さだが[GPS-AHD]は単一の高さ基準面によってはいないので、この点からもジオイドモデルによるジオイド高と[GPS-AHD]によるジオイド高の間に食い違いが避けられない。
3.オーストラリアジオイド(AUSGeoid98)をめぐる問題
 AUSGeoid98は、GRS80の楕円体のうえでの2ユ×2ユごとのEGM96のジオイドをもととして計算されている。これは除去-計算-復原という手順によって計算されている。このジオイドモデルのジオイド高と1013点の[GPS-AHD]によるジオイド高とを比較した。この二つがともに正しいジオイド高を与えるならば、差はゼロであるべきなのに、実際には見逃しがたい差が生じた。
すなわち
最大の差 3.558m
最小の差 −2.572m
差の平均 −0.002m 誤差±0.314m
であった。平均的にはAHDは南北に傾いている傾向である。
 この差の分布は、水準網の平均をフリー網平均で行なった結果と検潮場での拘束点つき網平均で行なった結果との差に類似している。このことは、これは拘束点つきの網平均結果のAHDには歪みが存在することを意味していて、差は重力ジオイドのせいではない。すなわち平均海水面決定の際の海面形状の影響が大きく、採用された平均海水面は偏りを持っているので、これを拘束として採用しているAHDには偏りが存在するということである。
 一方、AUSGeoid98自体にも問題がある。EGM96ではFaye重力異常を使っているが、これを計算するのに、重力の地形補正に使う地形モデルが必要である。JGP95EDEMという数値地形モデルDEMを使った。これにもVersion1と2とあり、新しい地形数値モデルによる地形補正は目下計算中である。
 重力データにもなお問題がある。AGSOの重力データペースでは重力観測点の高さに精度不足がある。バロメーターを使って高さをきめたので、高さは4〜6mの精度にとどまる。なお海域の重力は不足している。
 最後に地形モデルを使うときに地形の密度を仮定しなくてはならないが、正しい地形密度は利用不可能である。したがって、オーストラリアでは、高さシステムとしてはこのような地形密度仮定を必要としない高さである正規高を使い、ジオイドとしては正規高に対応する準ジオイドquasi-geoidを使うのがよい、ということになる。
4.新しい今後の提案
 上述のごとく、AHDには南北に傾いているという傾向があり、AUSGeoid98にも問題があるので、これらをふまえて新しい高さ基準はどうしたらよいかを考えてみる。次のようなステップが考えられる。

(1)一つは、あくまでAUSGeoid98をGPS-AHD高さで修正していく道を選ぶことである。これが完成すればGPS高をAHDに変換できるし、AHDをGPS高にも変換できる。このような試みは西オーストラリアで成功しているし、アメリカでも成功している。しかしこれにはGPSの誤差とAHDの誤差という問題がある。暫定的にはよいので、2002年までにはこれで行く。しかし、純重力ジオイドが本質的ということは残る。
(2)AHDにも誤差があり、再定義が必要である。再網平均するときに海水面形状SSTが問題なので、これには注意が必要である。これを考えると高さシステムとしては正規高を使うのがよい。このときジオイドはquasi-geoidであるべきである。GPS-quasi-geoidも大切な情報として含まれる。
(3)GPSと重力ジオイドのみで高さシステムを定義する。この際水準測量は全く使わない。