030.世界測地系2000の時間変化
2001年11月


1.はじめに
 Grafarend and Ardalan(1997)は世界測地系2000を提案したが、最近ではさらにその世界測地系2000のパラメーターの時間変化率も決定している。1841年にドイツのBesselが地球楕円体のパラメーターを決定して以来、今日までさまざまな地球楕円体の決定がなされてきたが、いずれも地球の形・大きさは変わらないとして、そのパラメーターが求めるものであった。しかし今回のGrafarend and Ardalan(2001)の世界測地系2000のパラメーターの時間変化の決定は、長い測地学の歴史でも初めてのことで、まさに画期的なことであるといってよい。この結果は、2001年9月にプタペストで開催された国際測地学協会の学術総会で発表されたのであるが、その後完全な論文が発表時の数字に少し改善を加えて完成された。この完全原稿を入手したので、それにもとずき今回の研究結果を解説する。要旨は次のようなことである。すなわち、
地球楕円体の形・大きさとその重力場を決定する測地パラメーターは次の四つ{GM, Wo, Ω, J2}である。
ここで
GM:地球の全質量Mと万有引力定数の積=地心引力定数
Wo:ジオイドの上の重力ポテンシャル
Ω:地球自転角速度
J2:地球引力場の球関数展開の2次0位の項の係数=地球の形状定数
である。
 最近の超伝導重力計の利用、人工衛星利用の宇宙技術の進歩などにより地球の重力場をきわめて高い精度で決定できるようになった。さらに今では高い精度で重力場の時間変化も分かるようになった。この時間変化は、主として世界の平均海面の変動によるものであろうが、これから地球の靜水力学的な形と大きさも変わる。すなわち、GM, Wo, Ω, J2も時間変化する。これらGM, Wo, Ω, J2の時間変化から地球楕円体の長半径a、短半径bも時間変化することが分かる。
また離心半径  も時間変化する。これらの時間変化の数値を決定する。
2.世界測地系2000
 地球ポテンシャルの計算に使う座標系としては、ヤコビの楕円体座標を使う。
これをで表記する。この座標系を使うのは、地球楕円体にかんする諸物理量を取り扱うには、 この座標系によるのが便利で精度も高いからである。三次元地心直行座標{x,y,z}はへと変換できる。
地球重力ポテンシャルWは

である。ここでUは引力のポテンシャル、Vは遠心力のポテンシャルである。は楕円体関数をつかい

と書ける。


である。

 ジオイドのうえの重力ポテンシャルWoを与えて{a,b}を計算できる。誤差評価も行う。
表1は世界測地系2000の基本パラメーターをまとめて示したものである。これにもとずい
て計算された地球楕円体のパラメーターの決定の結果は表2に示される。

表1.世界測地系2000の基本パラメーター


表2.世界測地系2000での地球楕円体

3.世界測地系2000時間変化
最近、Ardalan&Grafarend(2001)は

と計算した。
これは重力ポテンシャルの関数展開の係数の時間変化より出したものである。
より測地パラメーターの変化が求められる。これは次の通りである。
この結果をまとめて表3にしめす。
地球楕円体の長半径は1年に0.3mmずつ増大し反対に短半径は1年に0.0002mmずつ短縮する。測定の精度がナノに達しているナノ測地学の時代ではこのような時間変化を考えなくてはならないということである。ジオイド高の時間変化は地球表面での重力の平均値をつかい
となる。すなわちこの数値が現在の地球のジオイドすなわち平均海水面の上昇率である。長半径、短半径、ジオイド高ともにその時間変化は1mm/yearより小さいので1cmの精度の議論の時には、地球の形・大きさ・ジオイド高は時間変化はないとしてよい。また楕円体高h、正標高H、ジオイド高Nの関係は
h=H+N


としてもよい。つまり楕円体高の時間変化は正標高の時間変化としてよい。

表3.による地球楕円体のパラメーターの時間変化率
4.データ解析と開発したソフト
 長いあいだ人類は地球楕円体のパラメーターのより精密な数値を求めてきた。1841年のBasselの地球楕円体の数値より1980年の国際地球楕円体の数値まで140年かかってようやく精度は1mに達した。2000年のGrafarendらの地球楕円体パラメーターの数値決定は一挙に精度をcmのところまで引き上げたものである。2001年にはさらにその時間変化まで精度よく決定したのである。これは20世紀の測地学の最大の業績と言わなくてはならない。
今後は、なぜ地球は長半径の方向に増大し短半径の方向に縮むのか、このメカニズムを考える必要があろう。一方平均海水面の上昇が0.2mm/yearと求められたことは最も信頼できる海面上昇の数値が求められたことであって、地球環境への測地学の大きな寄与である。