032.最近のGPSに対するIGSの寄与
2002年3月


1.はじめに
 最近のGPS観測の精度は一段と向上し水平位置の決定は3〜4mm,垂直位置は10〜12mmの精度にも達している。このような精度が可能となったのはいろいろな理由があろうが、ここでは測地基準系確立に果たしている国際GPS事業(International GPS Service,IGS)の寄与について説明する。紹介する論文は

R.Ferland:Activities of the International GPS Service(IGS)Reference FrameWorking Group

である。これは2001年9月2日−7日にブタペストで開催された国際測地学協会の学術集会に提出されたもので、このほど完全論文が報告集に収録されて2002年2月にCDとして集会参加者に配布されたものの一つである。
2.IGSの役割
 国際GPS事業(IGS)は1991年に国際測地学協会の学術事業として設立された。現在では280点に及ぶGPS観測点を擁し、そのうち約215点の位置の成果が公表されている。その役割には

@解析センター(Analysis Center, AC) による週ごと・観測点ごとの解析結果の公表
A全地球網にわたる解析センター
 (Global Network Associated Analysis Center, GNAAC)の成果の公表
B世界地心基準系(international Terrestrial Reference Frame,ITRF)
 確立への参加などがある。

Bについては更に
@解析センターACとIGSのITRF解を得るうえでの参加
AITRFの実現化
などがある。現在はITRF2000の時代だが、この確立に貢献した。ITRF
2000に貢献したのはGPS週[0837~1088(96/00/21~00/11/18)]期間の167点における位置決定の結果である。ITRFの実現とは、IGSの網平均によって観測点の位置が決定できたことを意味する。これらは、GPSのユーザーによって広く利用されている。
3.IGS
ITRF2000は、VLBI・SLR・DORIS・GPSといった宇宙技術の位置決定解を総合したものである。約20の解が用意されたが、IGSの解はその一部をなす。GPS週[0837(96/01/21)~0977(98/10/02)]の間は、JPL・MIT・GNAACの解が総合解に使われた。GPS週[0978(98/10/04)]からは、CODE・ESA・GFZ・JPL・NGS・NRCan・SIOなどといった七つの解析センターの解が使われた。解析センターについては第1表に示してある。GPS週[1013(99/06/06)]からは、ERPによる一日の長さが含まれ、GPS週[0978(98/10/04)]からは地心の位置の情報も含まれている。総合解はIGSの280点の座標値とその変化率とを与えている。週ごとの
SINEX解を与える観測点は1996年に25点から60点に達し、今は40〜130点である。
ITRF2000とIGS解との間の残差SDを第2表に示す。これによると水平位置は1mm、垂直位置も3mmの精度に収まっている。速度は水平で2mm/y、垂直で5mm/yの精度に達している。
解析センターごとのある観測点での高さの時系列を見ると、7mmの振幅をもつ年周変化が見られる。これを第1図に示す。東西水平位置にも年周変化がみられる。点によっては、年周変化がないこともある。年周変化は、大気圧の荷重の年周変化によるのではないかと思われる。


第1表 IGSの解析センター及びIGS世界網解析センター

IGS Analysis Centers
CODE Center for Orbit Determination in Europe,
AIUB,Switzerland
ESOC European Space Operations Center, ESA,
Germany
GFZ GeoForschungsZentrum,Germany
JPL Jet Propulsion Laboratory, USA
NOAA National Oceanic and Atmospheric
Administration / NGS,USA
NRCan National Resource Canada, Canada
SIO Scripps Institution of oceanography,USA
IGS Global Network Associate Analysis Centers
NCL University of Newcastle-upon-Tyne
MIT Massachusetts Institute of Technology
JPL FLINN Analysis Center Jet Propulsion
Laboratory


第2表 ITRF2000と比べたIGS点の偏差(SD)

Position(mm) Velocity(mm/y)
Latitude 1.1 1.8
Longitude 0.9 2.3
Height 3.1 5.1

4.IGSのITRF2000の実現
 IGS点51がITRF97を実現していた。すなわち、ITRF97の座標値とその年変化率とを与えていた。提言されたITRF2000の実現は55点である。今までも、ITRF96,ITRF97,とSDは改善されてきたが、IGS97は格段によくなっている。

IGSのDRAO点における週ごとのまた解析機関ごとの
高さの残差(SD)振幅7mmの年周変化が見られる。

結論     
IGSの総合位置の決定解は280点を含み、そのうちの216点は現在利用できる。167点の解が2000年の秋に、ITRF2000に含まれるようにIERSに送られた。ITRF2000との結合の残差は水平位置決定で1mm、垂直位置で3mmの誤差であり、水平位置変化率は2mm/y、垂直位置変化率で5mm/yの誤差である。IGS点ごとの位置決定精度も格段によくなっている。