035.マレーシャの新しい地心測地系の設定
2002年5月


1.はじめに
 国際測地基準系(International Terrestrial Reference Frame,ITRF)が普及してくるにつれて、多くの国がその国の新しい測地系をITRF基準へと更新している。発展途上国でもそのような事業がとりくまれ、既に終了している国も多い。新しい世界測地系としての一国の測地基準の設定は、GPSの応用としても教訓的であり、ここではマレーシャの例を文献

M.Kadir,K.Omar,S.Ses,S.Abu,T.C.Hwa,C.L.Hua,S.Nordin: Establishment of New Geodetic Reference Frame for Malaysis, Proc.of the IAG 2001 Scientific Assembly,2-7 September,2001,Budapest,Hungary

によりながら紹介する。
2.測地基準網2000の構成
 マレーシャの地図局(Department of Surveying and Mapping,DSMM)は新しい測地基準網2000(National Geodetic Reference Frame 2000,NGRF2000)を設定した。この網はIGS点に結合することによって世界測地系として実現され、元期2000.0のITRF97によって定義されている。
 測地基準網2000はマレーシャの連続GPS点(Malaysian Active GPS System, MASS)の15点を含んでいて、この連続GPS点は1999年より稼動している。連続GPS点の最終座標値は1999年1月1日より2000年12月31日までの2年間のGPSデータをつかって決定された。ソフトは Bernese V3.4 と GYPSYとを使った。
 最終成果の精度は、水平で1cm,垂直で2cmであった。これがNGRF2000の中核となる測地点である。さらにNGRF2000は238点の既存GPS網(Peninsula GPS Geodetic Network,PGGN)によって全国をカバーしている。NGRF2000の水平精度は、2〜3cm,垂直精度は4〜6cmであって、これにより今後の地籍測量や地形図作成が促進される。
3.連続GPS点MASSについて
 新しい地心測地系はMASSによってその中核が構成されている。これは24時間連続観測のGPSデータを提供している。現在15点稼動している。データはマレーシャ地図局DSMMのなかの中央データ解析局に送られて、Bernese V4.3 で基線が決定される。網はこれらの基線で構成されている。網は周辺のIGS(International GPS Service)による連続GPS点の11点へと結合されていて、これらのIGS点を固定点としてMASSの網が平均されて、MASSの座標値が決定された。

□ マレーシャでの連続観測GPS点
 (赤丸で示す。三角印をもつものは検潮所での連続観測点)

4.中核網の座標値決定結果の解析

 2年間の連続観測のデータからマレーシャの地心測地系の中核となる網の最終座標値を計算した。この中核網は、MASSの15の連続観測点と11のIGS点とを含み、IGS点のITRF2000の座標値を固定して、、網平均した。これにより全マレーシャの測地点は、IITRF2000の元期2000.0によって計算されることが可能となった。

□ 結合されたIGS点

 座標値の精度評価は1週間の期間の日平均値のばらつきから推定した。座標値の再現性については、各点とも日平均値の再現性が水平で10mm,垂直で20mmである。各点の座標の時系列も重要な結果で、図3にIPOH MASSの例を示す。

□ IPOH MASSにおける座標値の時系列


5.既存GPS網PGGNの強化と全国網の最平均
 既存GPS網PGGNのうち36点を改測して網を強化した。この上でMASSと統一することができる。全国GPS網の最平均は GEOLAB V3.0で実施したが、この際改測点のうちの25点を拘束点とした。結果は、2cm以下の精度で座標値を決定できた。こうして全国測地網のITRF2000に準拠した元期2000.0の座標値が確定した。また図4に1点固定のときの全国GPS網の誤差楕円の分布を、図5に34点固定の時の全国GPS網の誤差楕円を示す。

1点固定時の全国GPS網の誤差楕円の分布 34点固定時の全国GPS網の誤差楕円の分布


6.新成果の意義
 新しい地形図は約200m旧の位置よりずれる。土地の境界を定義するのに、座標を使う[この場合には境界の絶対位置が確定できる]方法とベクトル(方向角と距離)を使う[この場合には境界の相対位置が決定される]方法とあるが、本来はその差はないはずのものである。しかし昔は均一な座標を使うのが難しいので、ベクトルによる方法が使われたわけである。今も一般的にはベクトルによるのが便利ではあろう。しかし正しい方向角と距離は現在使用のものとは異なる。
 以上のことがらは、その理由についてよく啓蒙する必要がある。
7.まとめ
 マレーシャの連続GPS点を媒介としてITRFに準拠した全国測地網が統一された。
既存GPSもうのうち36点が再測定されて、これが連続GPS網と結合された。GPS網のうちの34点の元期2000.0のITRF2000座標値を固定して全国測地網が再平均された。それで測地網は、ITRF2000によって定義されたこととなる。この地心測地系が国際的にすべての地理学的なデータの基準となる。マレーシャはmmのレベルの精度の測地系の確立によって先進国と並ぶ国となったのである。