029.ヨーロッパの新しい高さシステム(EVRS)
について
2001年10月


1.はじめに
 ヨーロッパでは各国の水準網を統一しようという動きは昔からあったが、最近は高さの国際基準を念頭においた新しい試みが展開されている。この試みは、今後の水準測量のあり方やその国際基準面など新しい高さシステムの確立のうえで大変重要なものである。
 国際測地学協会のヨーロッパ基準委員会(EUREF)は1987年の国際測地学地球物理学連盟19回総会(バンクーバー)でその設立が決定されたものであるが、1994年にはこの委員会はヨーロッパの高さのシステムについても検討することとなり活動を開始した。これより前に、統一ヨーロッパ水準網(UELN-73)があったが、この活動は一時途絶えてその10年の中断の後に、UELN-95として再開された。この網平均は1988年に完成したが、これをUELN-95/98という。これと併行してヨーロッパ垂直基準網(EVRN)もスタートしていた。これはGPS、検潮、水準測量の結果などを結合して統一垂直網をつくることを目的としたものである。
 こうした努力の背景のもとに今はヨーロッパ垂直基準システム2000(EVRS)が推進されているわけである。本稿ではこれらの試みを考察してみる。
なおEVRSに関しては http://evrs.leipzig.ifag.de/ で閲覧できる。
2.統一ヨーロッパ水準網(UELN)
 統一ヨーロッパ水準網(Unfied European Leveling Network,UELN)のさらにその全身はEULN-73である。EULN-95の網平均はドイツ連邦地図測量局BKGによって遂行された。観測値としては重力ポテンシャル数を採用して網平均し、この際にアムステルダムの検潮所の平均海水面を高さの基準とした。重力ポテンシャル数とはジオイド上の重力ポテンシャルとある地形面の上の重力ポテンシャルとの差である。網平均の規模は



であった。
平均された重力ポテンシャル数より最後には正規高を算出した。
3.ヨーロッパ垂直基準システム(EVRS)
 ヨーロッパ垂直基準システム(European Vertical Reference System,EVRS)は各国の水準原点を数cmの精度で確定することを目的としているものである。
 UELNの点PではETRS89(Xp Yp Zp)ETRSという世界座標系での座標値と重力ポテンシャル数Cp=W0 UELNとが分かっているとする。ETRS(European Terrestrial Reference System)89とは1989年のEUREF89GPSキャンペーンでつくられた世界座標系で、1989.0においてITRFと一致するとされている。
正規高Hnは
Hn=Cp/
で、求め得る。
また重力ジオイドが分かればGPSによる楕円体高から正標高が分かる。この目的のためのGPSは1997年5月21日より29にかけて実施された。
4.ヨーロッパ垂直基準システム2000(EVRS)
 ヨーロッパ垂直基準システム(European Vertical Reference System,EVRS)は次のような内容をもっている。

4-1.定義

a. 重力のポテンシャルW0が平均地球楕円体の正規ポテンシャルU0と等しい面を高さ基準の面とする。
W0=U0
b. 地球の任意の点Pの重力ポテンシャルWpとW0との差ΔWpを高さ成分という。
−ΔWpは重力ポテンシャル数Cpである。

−ΔWp=W0−Wp =Cp

c. このシステムはゼロ潮汐システムである。すなわち永久潮汐も含め潮汐の影響はま
ったく無いとした時の高さシステムである。

4-2.原点の実現
EVRSはUELN95/98の節点での重力ポテンシャル数と正規高とで実現されている。この際にエストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、なども含むように拡張された。高さの基準はアムステルダムの検潮所の測標NAPである。

a. EVRSの原点では。
Cnap=0

b. GRS80を使うこととし、その正規楕円体の上の正規ポテンシャルUoGRSがNAPで定義されている重力ポテンシャルと等しいとする。
WREALNAP=UoGRS80

c. 具体的数値下記のごとくである。
高さ基準 UELN ETRS89 Cp 正規高 IGSNで
の番号 の座標値 m2s-2 m の重力kgal
EVRS 13600 52°22′53″ 7.0259 0.71599 9.81277932
000A2530 4°54′34″

4-3.網平均
網平均の規模は



であった。
正規高は
Hn=Cp/
ここで
=γe−0.3086mgal/m・h/2+0.072×104mgal/m・h2/2
である。1980正規重力式とETRS89とを使っている。
5.定義したEVRSの原点と実現した原点との関係
 ΔWSSTを海面地形の効果、ΔWTGoを潮位観測による平均海水面のゼロ点の誤差とすれば
WNAPを=Wo+ΔWSST+ΔWTGo
WNAPを定義したEVRSの原点の重力ポテンシャル、WREALNAPを実現したEVRSの原点の重力ポテンシャルとすればその差は
ΔWEVRS=WNAP−WREALNAP
=WNAP−UoGRS80
=Uo−UoGRS80+ΔWSST+ΔWTGo
ΔWEVRSは世界高さ基準との差ともいえる。
6.ヨーロッパ垂直システム2000(EVS2000)
 ヨーロッパ垂直基準システム2000(EVRS)の今の段階はヨーロッパ垂直システム2000(EVRS)である。
EVS2000はヨーロッパの永久GPS観測、繰り返し水準をもっているUELN、ヨーロッパ重力ジオイド、潮位観測などを統合した動的な高さシステムである。1995年に特別な委員会が設定され、最初の課題は、
○利用できる水準の解析とデーターベース
○テスト計算に使うソフトウェアの改善
○テスト地域(オランダ、デンマーク、ドイツ北部)での基本原理の点検
などであるとした。
現在ではGPSの高さの精度も7〜9mmに達しえることが分かった。また地殻変動も3年間の観測でVh=1.0mm/year程度の誤差で決定できることも分かった。
水準網の観測方程式は、Δhij,kを時期kにおける2点Iとjの間の観測比高として

Δhij,k=Hj−Hi+Vj(tk−t0)−Vi(tk−t0)

を得る。これによって元期における高さhと速度Vとを決定できる。最終成果は各水準点の高さとその年変動率である。