1.はじめに |
水準測量は大変手間のかかる測量であり、GPSは高さの測量も可能なところから、GPSによって水準測量が実施できないか、いろいろ検討がなされてきた。最近GPSの高さ測定の精度も向上し、水準測量に匹敵するようになってきた。特に長距離の二点間の高さの差の場合には、GPSのほうが水準測量よりも高い精度が期待できる。GPS水準測量は楕円体高を与えるのみなので、これを正標高にするには、精密ジオイドモデルが必要であることは言うまでもない。米国では今までの水準測量に替わり、GPS水準測量が実用化されるに至っている。ここでは米国国立測地局(National Geodetic Survey,NGS)のGPS水準測量マニュアルの例を文献
D.B.Zilkoski,J.D.D'Onofrio,S.T.Frakes:Guidelines for establishing GPS-derived ellipsoidal heights,NOAA Technical Memorandum NOS NGS-58,2000
によりながら、その要点を紹介する。 |
2.NGSのGPS水準測量マニュアル |
NGSのGPS水準測量マニュアルはGPSによる楕円体高の測地網設定のためのマニュアルで、いろいろな機関への委託研究の成果やグループの議論を経て、成文化に至った。今後米国では水準測量はこの方法によることを意図している。
精度の上では2cmと5cmの水準網とがある。ジオイト地図とあわせて楕円体高の水準網から正標高の水準網を作ることができる。正標高水準網の精度は、ジオイドモデルの精度に左右される。とりわけGPS水準測量では座標系の設定が大切で、基準系としては、ITRFによる。米国ではこれに整合しているNAD83が基本測地系で、これをITRF/NAD83という。 |
3.GPS水準測量観測の実施方法 |
要点を抜書きしてみる。
1. |
10km以上の基線を観測するときには、2周波受信機が必要である。しっかりした台をもった測地用のアンテナも必要である。 |
2. |
一つの作業で少なくとも3点の既に座標値の決まった国立GPS基準点を含んでなくてはならない。 |
3. |
基準点、一次点などでは、三日間にわたり一日3時間以上の連続観測を実施する。 |
4. |
1セッションの観測時間は下記の通りとする。
□2cmの精度のとき
一セッション30分以上のGPS観測で基線をつくる。
□5cmの精度のとき
一セッション30分以上のGPS観測で基線をつくる。ただし2次点ではこの必要はない。 |
5. |
点間距離の制約は下記の通りとする。
□2cmの精度のとき
10km以上の点間距離は不可とする。7kmていどとするのがよい。
□5cmの精度のとき
20km以上は不可とする。10km程度がよい。 |
6. |
すべての点について少なくとも二日にまたがり2回以上のGPS観測を実施する。第一日の観測の後、少なくとも27〜33時間後に第二日の観測を実施する。第一日の観測を午前中にやるのがよく、この場合第二日の観測を15〜21時間後に実施する。 |
7. |
30分観測の時には15秒サンプリングとする。30分以下のときには、5秒サンプリングを実施する。 |
8. |
GPS水準の基点となる点と一次点では気象データをとる。湿度と大気圧の測定は、アンテナのところで実施する。 |
9. |
アンテナの設定はGPS水準測量のキーポイントである。アンテナの中心は水準点の真上になくてはならず、また距離の測定も丁寧に実施する。 |
10 |
暦は必ず精密暦を使う。 |
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4.ベクトル解析 |
1. |
基線ベクトルの組み合わせでGPS水準網をつくり、各環の閉合差をみる。1.5cm以下でなくてはならない。 |
2. |
二点間の楕円体高について二回の観測が2cm以上の差の時には再測量する。 |
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5.成果 |
一点についての成果は、緯度・経度・楕円体高またはX,Y,Zである。座標系はITRF/NAD83である。
付記
以上、米国測地局のGPS水準測量のマニュアルは観測のみの規定で、水準網平均の規定や精密ジオイドモデルの利用の仕方などについての記述はない。これらについては別途用意されるものと思われる。なお、上記のマニュアルは2000年末にNGSのホームページから採用したもので、その後改定が出ているかもしれないが、これについては未調査である。 |