1.はじめに |
高さ決定には精密水準測量が長く使われてきたが、100kmの水準路線を観測するのに約3ケ月もかかるなど、大変に苦労の多いものであった。リフラクションの問題も深刻な問題であつた。そこでこれに替る水準測量としてGPSに依拠した観測が注目されてきた。いまやGPS観測では100kmはなれた2点間の高さの差を観測するのにも数時間の観測で数mmの精度が可能であり、手間も比較的にかからず、またリフラクションの問題も完全にない。だが問題は、GPSによって求められる高さは、楕円体高であって水準測量によって求められる正標高とは異なるという点である。楕円体高にジオイドの起伏の補正をすれば正標高になることが分かっているが、水準測量の精度に匹敵するジオイドのモデルが容易には得られず、この点が難点であった。
さらに次のような問題もある。ジオイドは重力異常の積分によって求められる。これを「重力ジオイド」という。一方、正標高の分かっている水準点でGPS観測をして楕円体高を求めればジオイドがわかる。これを「GPS/水準・ジオイド」という。ところが本来一致すべきこの二つのジオイドが実は、なかなか一致しないのである。この理由は、今日では二つの方法で準拠している基準面が実は異なるというような理由が最も大きいと、考えられるようになった。これらの事情を考慮して開発されたカナダ大学の「Kostakis・Siderisの理論」(1999)が現在では広く「GPS/ジオイド・水準測量」の基礎理論と認められ、ここにGPS/ジオイド・水準測量の手法が確立した。
とはいえ「Kostakis・Siderisの理論」はなかなか数式表現も複雑でその理解は難しいものである。そこで、比較的に狭い範囲でジオイドの起伏も単純な分布の場合に限って応用できる、簡易化されたGPS/ジオイド・水準測量を考えてみることとした。 |
2.簡易化されたGPS/ジオイド・水準測量 |
いまいくつかの水準点で正標高が分かっている区域でGPS観測を実施し、ジオイドのモデルと統合的な処理をして、GPS観測のみを実施した水準点の楕円体高を補正して正標高を得るための法式を見出すことを考える。
ある水準測量実施区域で正標高が分かっている点がi点あるとする。ここでGPS観測を実施すればi点について次の式が成立する。
ここで
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:i点の楕円体高 |
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:i点の正標高 |
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:i点のジオイド高 |
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:i点のジオイド高に加えるべき定誤差 |
である。正標高が正しくジオイドからの高さであり、ジオイド高や楕円体高の依拠している基準面が一致しておればはゼロであるが、一般にはそうなっていないのをジオイド高の定誤差によるとした。は、他の項は与えられているか観測やモデルによって得られる量であるので、したがって計算できる量である。
さらに水準測量実施区域で正標高が分かっていない点がj点あるとする。ここでは次が成立する。
ここで
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:i点の楕円体高 |
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:i点の正標高 |
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:i点のジオイド高 |
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:i点のジオイド高に加えるべき定誤差 |
である。は水準点の位置している場所の関数と考えると、他の任意の点での値は何らかの補間法で推定できる量であって、この結果がである。これが推定できれば他の量は観測またはモデルによって得られる量であって、従って未知のが求められる。
このような目的の推定法としては最小二乗コロケーション(least squares colocation)がよく使われるが、これは高級な方法なので、もっと簡易な正標高既知点と未知点の間の距離の逆数で重みをつける重み付き平均によることとする。すなわち、たとえば
と仮定する。ここに重みは
であり
:2点i,j間の距離
である。。 |
3.地盤沈下率の決定 |
地盤沈下測量の場合のごとく正標高自体よりも沈下率の決定により関心がある場合には、さらに取り扱いを簡単にできる。というのはGPSによる比高差の時間変化をただちに正標高の比高差の時間変化とみなしてもよいからである。最近、全地球に渉りジオイドの時間変化は0.2mm/年であることがGrafarend(2001)によって確かめられて、2点間のジオイド差の時間変化は考慮しなくてもよいことが確認された。したがって、初期値として正標高が確立していれば、地盤沈下水準測量に際しては、従来の水準測量による比高差の決定に替わってGPSによる比高差を使ってもよい。このように地盤沈下測量では、GPS水準測量が完全に実用化できる。 |
4.簡易法適用のうえでの注意事項 |
簡易法の精度は、@正標高の分かっている点の分布Aジオイドモデルの精度B補間法の精度、などによって決まると考えられる。、@については、正標高未知の水準点がその内部に分布するように、正標高既知の点を選点するようにすべきである。Aについては最新のモデルを採用する。さらにC推定された水準点の正標高を実測してみて推定値の信頼度を確認してみるなどの検討も必要である。 |
5.まとめ |
始めは理論式のプロクグラム開発や正標高の最終精度の点検などの手数かかかるが、これらを見極めながらニ回目以後の観測では、この手法による新旧の正標高の差からの変動も検出できるようになり、これらを経て実用化の道をたどることができる。 |