1.はじめに |
米精密なジオイドの決定は古くからの測地学の基本的な課題の一つであるが、最近はGPS測地の進歩により、とりわけ楕円体高と正標高の相互変換や「GPS/ジオイド・水準測量」などの必要を背景に、cmレベルの精密なジオイドモデルが要望されるようになってきた。このような状況のもとで、それぞれの国が精密ジオイドモデルの完成に努力しているわけであるが、日本では最近精度4cmというモデルが作られるに至った。このモデルはGSIGEO2000と言われる。新しい「国土交通省公共測量作業規定(世界測地系対応版)」では公共測量でも今後これを用いるべきことが規定されているので、学術研究の上のみならず実用測量でも重要な意義をもつジオイドモデルである。ここではこのモデルについての学術報告
Kuroishi Y,Ando H,Fukushima Y:A new hybrid geoid model for Japan,GSIGEO2000, Journ.Geod.,76(2002),428~436.
によりながら解説的に紹介し、さらにその利用のうえで注意すべき点についても述べることとする。 |
2.精密ジオイドモデル作成の考え方 |
精密なジオイドモデルは、楕円体高を正標高に変換するのに役に立つのみならずGPSと水準測量とを結合して永年的な地殻変動を研究する上でも必要なものである。ジオイドの決定には二通りの方法がある。重力の観測により重力異常をもとめ、これについてストークス積分という積分を全地球表面について行なえば、基準とした楕円体表面からのジオイドの高さが得られる。このようにして決定されたジオイドを「重力ジオイド」という。これが伝統的なジオイドである。一方、正標高の与えられている水準点でGPS観測を実施すれば楕円体高が分かり、これと正標高とを比較してもジオイドの高さが分かる。このようにして決定されたジオイドを「GPS/水準・ジオイド」という。「重力ジオイド」は理論上の定義は完璧であるが、重力異常の分布が全地球上均等に分かっていなくてはならないという制約とともに1点のジオイドを求めるにも全地球上にわよたるストークス積分と言う煩雑な計算を行なわなくてはならないというわずらわしさがある。一方、「GPS/水準・ジオイド」は任意の1点でのジオイドが簡単にわかるという利点があるが、GPS観測の行なわれるのは水準点であり、もともと水準点の分布は偏っているので、全地球上のジオイドを求めるには不向きと言う難点がある。また二つのモデルを比較して分かってきたことであるが、重力ジオイドはその短波長成分は比較的精度よく求められるが、意外にも長波長成分がよくは反映されていないということが判明している。そこで現在とられている解析手法は、基本的には重力ジオイドから出発しつつも、GPS水準ジオイドの知識と結合してより精度の高いジオイドを求めると言う方法である。
重力ジオイドであるJGEOID93というジオイドモデルをGPS水準ジオイドに合わせるように改良したことがある。このときに、離散的に分かっている重力ジオイドへの補正量を最小二乗コロケーションという方法で任意の点について補完した[Kuroda et al,1997]。このとき最終的に決定されたジオイドのバラツキの精度(SD)は±7cm程度であった。しかし用いた高さは正規正標高でであって、正標高ではなく、また地殻変動の影響の除去と言う点でも問題を残していた。そのごJGEOID93はJGEOID2000へと更新されたが、現在では、さらに日本の測地系は測地系2000という世界測地系へと変更され、また高さもヘルメルト正標高へと統一されたので、このような状況下で、今回の、GPS/水準測量の結果を新しく解析しなおして、更新された高等ジオイドJGEOID2000の計算を完成させたのである。 |
3.精密ジオイドモデルの計算 |
以前のJGEOID2000では、1′x1.5′のメッシュごとに、ストークス積分を1次元FFTという方法で実施したジオイドの高さを与えてある。GPS観測と水準測量によるジオイドはそれが求まっている点の分布が偏っているが、ジオイドの長波長成分の補正に利用するのには適している。この補正の量は面的な分布をしているところから補正面(corrector surface)というが、この補正面を決定するときに最小二乗コロケーションを使う。
楕円体高をh、正標高をH、ジオイド高をNとすればN=h―Hである。日本では現在は正票高を求めるのに、地殻の密度をρ=2.67gr/cm3とした場合のヘルメルト(Helmert)の式によっている。水準点でのGPS観測は1995年に820点でなされた。このような点でのJGEOID2000ジオイドとGPS/水準ジオイドの差の平面近似は、傾斜0.44ppm、方向N25_W,ばらつき(SD)±15.3cmであった。
最小二乗コロケーションを使うためにTcherning and Rapp(1974)による次の共分散の式を採用する。
ここで
ψ:角距離
γ:正規重力
RB:ビエルハンマーの球の半径
RE:地球半径
Pn:n次のルジャンドル関数
である。未知数はA,N,RBなどで、これは離散的に分かっている補正量の実測値から共分散の式の形に合うように決定する。N=60_,RB=RE=500m,C(ψ=0)=0.03m2 が適合する。
最小二乗コロケーションの式は
である。ここで
1:観測値すなわちGPS/水準によるジオイド高と
JGEOID2000モデルでのジオイド高の差(これは補正量) |
:補正量のグリッド点での推定値(これをシグナルsという) |
Csl:シグナルsと観測lとの間の共分散 |
CSS:sと他の点でのsとの間の共分散 |
Cll:lと他のlとの間の共分散 |
Dll:lの共分散行列 |
HGPS:GPSによる楕円体高 |
Hlevel:水準によるヘルメルト正標高 |
NJGEOID2000:JGEOID2000モデルでのジオイド高 |
ESS:補正量の誤差 |
である。GPS/水準の誤差は±5cmの程度と見積もられる。最終的なジオイドモデルはJGEOID2000を補正して得られる。これをGSIGEO2000という。 |
4.GSIGEO2000の精度 |
GSIGEO2000の精度を点検するために三つの方法でGPS/水準の結果と比較した。ひとつは816点のGPS/水準の点で比較し、またGPS/水準を日本の半分づつHalf1とHalf2とに分けた上で比較した。これらの点検の結果、GSIGEO2000の精度は±4cmの程度と判明した。
結論として、GPS/水準のジオイドに一致するように計算して新しい日本測地系にマッチするハイブリツドジオイドGSIGEO2000が完成し、そのバラツキの精度は±4cmである。 |
5.GSIGEO2000利用上の注意 |
@ そのバラツキの精度は±4cmである。GPSによる楕円体高の精度は数mmに達しているので、楕円体高の正標高への変換はジオイドモデルの精度に依存している。4cmの精度以上の変換はできないことは言うまでもない。同じ頃フインランドではFIN2000というジオイドモデルが完成したがこの精度が±3cmと言われているので「M.Ollikanen,2002」、日本のモデルはこれにくらべ少し悪く、なお改善の余地のあるモデルである。
A 潮汐の影響をを全く考えないときのジオイドである。潮汐の成分には時間に依存しない永久潮汐と言われる成分があり、ジオイドはこの影響も考えて定義すべきと言う意見もあるので、この点を念頭においておく必要がある。
B GSIGEO2000は正標高が正しく与えられているとの前提でモデルがつくられている。しかしながら現行の日本の正標高は、基準となっている東京湾平均海水面がジオイドとは必ずしも一致しないと言う点の補正はしていない標高であって、この分だけシフトされたジオイドである。この点ではなお長波長成分について問題を残していてGPS/水準ジオイドに定誤差がある分だけ真のジオイドからずれている。
C いくつかの離島についてはモデルが与えられていない。
参考文献
M.Ollikanen,The Finnish geoid model FIN2000,Proc.the 14th Genereal Meeting of the Nordic Geodetic Comission,2002,111-114. |