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GPS/Geoid・水準測量とその精度評価の理論
2003年4月


1.はじめに
 高さ決定には精密水準測量が長く使われてきたが、100kmの水準路線を観測するのに約3ケ月もかかるなど大変に手間のかかるものであった。リフラクションの問題も深刻であつた。そこでこれに替わる水準測量としてGPSに依拠した観測が注目されてきた。現在では100kmはなれた2点間の高さの差をGPSによって決定するのにも数時間の観測で数mmの精度が可能であり、手間も比較的にかからず、またリフラクションの問題は完全にない。しかし比較的短い距離間の水準測量に匹敵する精度を確保できるかには、なお問題を残している。さらにまたGPSで観測出来るのは楕円体高であって、正標高にするためにはジオイドの高さの情報が必要であり、利用できるジオイドのモデルの精度が問題となる。ここでは文献

G.Fotopoulos,C.Kotsakis,M.G.Sideris:Determination of the Achievable Accuracy of Relative GPS/Geoid Levelling in Northern Canada, Proc.of the IAG 2001 Scientific Assembly,2-7 September,2001,Budapest,Hungary

によりながらGPS/Geoid・水準測量の基礎と精度評価の理論の現状を紹介する。
2.GPS/Geoid・水準測量とその精度評価の理論
 基礎の式は

Hi=hi−Ni・・・(1)

ここで
hi:楕円体高(GPS観測より計算できる)
Ni:ジオイド高(重力ジオイドモデルより計算できる)
Hi:ヘルメルト正標高

である。ジオイドには全地球上の重力の分布より計算できる「重力ジオイド」と正標高と楕円体高の差より求められる「GPS/水準・ジオイド」とがあるが、現在ではさまざまな「重力ジオイド」のモデルがあって任意の地点の位置を指定すればその地点の重力ジオイドは計算できるのである。正標高にもさまざまな計算式があるが、通常は地球内の平均重力を計算するのにヘルメルトの近似式を使うヘルメルト正標高が採用されている。(1)式の各項にはさまざまな誤差が含まれていて、厳密にはそのままでは成立しない。現在では最大の誤差はジオイドのモデルの基準面と正標高決定の依拠している基準面とが異なっていることであることが分かっていて、これに由来する定誤差を

と表現すると

・・・(2)

となる。このは楕円体高をジオイドモデルによって正標高へと変換する際の補正の役割を担っているところから、これを補正表面(Corrector Surface)という。この種の補正表面の3パラメーターの場合の式はハイスカーネン・モーリッツの有名な測地学の教科書『物理測地学』(1967)の第5章第9節に記載されている。6パラメーターの場合の式はKostakis et al(2001)が与えた。具体的な式は後に述べる。
今は二点間の相対的な高さ決定の問題を考える。基線(k,l)の間の正標高の差は

・・・(3)

はGPS/ジオイド・水準の平均で求められるパラメーターである。これを求める最小二乗平均の理論はKostakis and Sideris(1999)が与えている。式(3)に対応する観測方程式は一般型として

l=AX+BV                     (4)

の型となり、そのXの解はQを観測の共分散行列の余因数行列として

・・・(5)
となる。またVの解は

・・・(6)

である。ここで

Imはmxmの単位行列、mは観測方程式の数である。

今はの誤差を議論する。(3)式に誤差伝播の一般法則を適用して

・・・(7)

:楕円体高の相対誤差(分散)  
:ジオイド高の相対誤差(分散)    
 :補正表面の推定したパラメーターの共分散行列     

・・・(8)

:相対GPS楕円体高の共分散
:相対正標高の共分散
:相対ジオイド高の共分散

 高さの差の決定の時には補正表面は
・・・(9)
、aは既知の係数、Xは未知数ベクトルである。

この研究では三つのケースを取り扱う。
(a)3パラメーターモデル


(b)4パラメーターモデル



(c)6パラメーターモデル



ここで、ψとλは観測網や基線の端点の水平測地座標である。eは準拠楕円体の離心率として
である。
3.各誤差の共分散行列
 1、水準測量の誤差
正標高の差の完全共分散行列は
・・・(10)

:計画行列(要素は−1,1,0)
:網のすべての点での正標高の共分散行列

・・・(11)

:計画行列(要素は−1,1,0)  
:対角重み行列
を推定するのに次の誤差を考えた。


これは1等,2等,3等水準測量に対応している。

2GPS測量の誤差

・・・(12)
・・・(13)

3ジオイド高の誤差

水準測量とGPS観測を別々に平均してを得る。これを[式(8)の]の計算に使う。EGM96の誤差を水準点でのジオイド高の誤差に使う。
・・・(14)
4.数値テストとその結果の解析
 カナダでの例で数値テストをした。全部で275点からなるテスト網を使った。GPSは49゜_ψ_55゜,−120゜_λ_−110゜といった範囲をカバーしている。基線の長さは最小10km最大100kmまでいろいろに変えてテストしてある。ΔHは基線が長いと精度が劣る。最も最終の結果に効くのはである。これは世界ジオイドのモデルを使ったからで、局所のモデルならばもっと精度のよいジオイドモデルが利用できて、もっと小さくなる。パラメーターモデルではパラメーターを増やすとかえって精度は悪い、という結果である。
5.まとめ
 GPS/ジオイド水準測量の基礎理論について述べ、その相対的な測量の場合についての誤差を評価してみた。結果は他のGPSや水準測量の精度に比べ汎地球ジオイドモデルの精度が悪いのに大きく左右されることが分かった。また将来の研究としてはパラメーターの数に依拠する補正表面の精度を特に研究する必要があることも分かった。