地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#6 世界一、高い山は……

Q6.

図6-1 チベット側から見上げたエベレスト(チョモランマ)山

 

エベレスト(チョモランマ)山は世界で32番目の高さの山だと聞いたことがあります。でも、そんなの嘘ですよね?

 A6.

世界一高い山はエベレスト(チョモランマ)山だってことは、みなさんよく知っていますよね。では、この世界32番目っていった人は、嘘をついたのでしょうか ?
 
そもそも山の高さって何でしょうか。例えば、富士山の高さは海抜3776mであるといいます。海抜、つまり海面から何m上にとび出ているのかというのが、山の高さ、「標高」です。確かにふつうに使われているこの定義では、エベレストが世界一高い山です。
 
でも、山の高さには、このような定義しかないのでしょうか。そうだとすると、もし、地球温暖化などで海面の高さが変化したら、山の高さも変わってしまいますね。海面の高さが変わっても変化しない高さってないのでしょうか。そう、地球の中心から山の高さを測ればいいのです。このように、地球の中心(重心)から測った高さを「地心距離」といいます。
 
表6-2を見てください。地心距離の順に山の高さを並べたものです。地心距離の大きな山は、すべて緯度の低い赤道付近にあることがわかるでしょう。それも、5位のキリマンジャロを除くとすべて、南米のアンデス山脈の山々です。標高ではヒマラヤ山脈の山々が圧倒的に高いのに、ずいぶん違いますね。
 
その理由を説明するためにも、標高から地心距離を求める方法を説明しましょう。標高というのは、海流や水温・気圧の変動のない仮想的な海面の位置からの距離のことです。したがって、ある場所の地心距離を決めるには、その点の標高に、地球の中心から海面までの距離を加えて、
 
地心距離=標高+海面の地心距離
 
という式を計算すればいいことがわかります。
 
さてここで、地球の形はだいたいのところは、赤道方向が張り出した地球楕円体だったことを思い出してください。地球表面の7割は海ですから、海面もほぼ楕円体、それも赤道が張り出した楕円体ということです。したがって、赤道海面までの地心距離のほうが、北極海面までの地心距離よりも大きいのです。具体的には、赤道の海面までの地心距離は約6378.1kmで、北極の海面までの地心距離約6356.7kmよりも、やく21.3kmも大きくなっています。これで、赤道の山々は20km以上も得していることになります。

表 6-2 主な山の標高と地心距離
  山名 国名・地域名 緯度 標高(m) 地心距離(m)
1 チンボラソ エクアドル 1°29′S 6310 6384458
2 ワスカラン ペルー 9°08′S 6768 6384397
3 イェルバハ プルー 10°16′S 6634 6384125
4 コトパクシ エクアドル 0°40′S 5896 6384054
5 キリマンジャロ タンザニア 3°05′S 5895 6383952
6 カヤンペ エクアドル 0°02′N 5790 6383947
7 アンティサナ エクアドル 0°30′S 5704 6383860
8 ウイラ コロンビア 3°00′N 5750 6383855
9 チャンパラ ペルー 8°37′S 5753 6383435
10 イリニザ エクアドル 0°40′S 5363 6383422
           
32 エベレスト ネパール・中国 27°59′N 8848 6382270
           
  富士山 静岡・山梨 35°21.6′N 3776 6374833
  宮之浦岳 屋久島 30°20.2′N 1935 6374631
  沖ノ鳥島 火山列島 20°25.5′N 0 6375595
           
  チャレンジャー海淵 マリアナ海溝 11°19′N -10920 6366324
  北極海海底 北極海 78°46′N -5608 6352000

 
(外国のデータは大久保義弘提供)
  表6-2を見ると、地球の中心から富士山頂までの距離は6374.833kmですから、赤道の海面より3.3kmも中心に近い(低い)ことも驚きのひとつです。また、地心距離で見ると、日本でいちばん高い山も富士山ではなく、日本の最南端の沖ノ鳥島ということになります。沖ノ鳥島は、満潮時にはようやく海面から顔を出しているという露岩ですが、地球の中心から見ると日本でいとばん高いところです。なお、九州で標高がもっとも高い屋久島の宮之浦岳が富士山よりも地心距離が大きいのではないかと思って求めてみましたが、そうではないようです。
 
海の深さも同様です。普通の定義(水深)だと、いちばん深い海底はマリアナ海溝のチャレンジャー海淵です。しかし表を見ると、北極海の海底のほうが地球の中心により近いということになります。
 
最近はGPSを使うと、標高よりも地心距離のほうが正確に求められるようになってきました。それなら、これからは山の高さは標高ではなく、地心距離で表すことになるのでしょうか。ずっと先のことは分かりませんが、当分はそうはならないでしょう。それは地心距離だと、普段の生活から感じる高さと違ってくるからです。たとえば、アメリカのミシシッピ川では、アメリカ中央平原を流れる中流の方が、メキシコ湾岸の河口より地心距離が短くなります。つまり、地心距離を採用すると、川の水が低いところから高いほうに向かって流れることになるのです。海岸線だって、それぞれみんな高さが違うことになります。これは変だし、橋や道路を作るときに不便ですね。やっぱり海面を山の高さの基準にすべきなのでしょう。
 
このように、科学技術がどんどん進歩すると、私たちのの感覚からかけ離れていくことが、他の分野でもあるのようです。科学技術の進歩に、私たち人間の五感がついていっていないということなのでしょうか。
 

図6-3 チンボラソ山(三宅史敏撮影)