地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#1 地球が丸いってほんとうですか?

Q1.

宇宙からみた地球。アフリカ大陸、アラビア半島が見える(NASA)

 
この本には「地球が丸いってほんとうですか?」という題がついていますが、宇宙から撮った写真(図1-1)を見ると、地球って本当に丸いのですね。人類が宇宙に飛び出せなかった時代に、誰が地球は丸いなんてことを考えついたのですか。またどうして地球が丸いとわかったのですか?

 
A1.

私も小さいころ、私たちが立っているこの地球、地球という言葉が適切でなければ、この地面は丸いのだと初めて聞いたとき、すごく不思議な気がしました。丸いのであれば、地球の反対側にいる人は、どこか奈落の底に落ちてしまうのではないかと思いました。
 
 実際、古代の人達も、地面は平らだと考えていたようです。それが普通の感覚ですよね。皆さんもよく知っている古代四大文明とよばれる、エジプト、メソポタミア、インダス、中国のいずれの文明も、暦を作るための天文学はかなり進んでいましたが、大地は平らであると考えられていました。アメリカには、今でも地球は平らだと主張している人たちの組織があるくらいです。
 
 2003年7月に札幌で開かれた第23回国際測地学地球物理学連合総会では、中高生の研究発表の場が特別に設けられました。そこで、札幌の札苗北中学校の科学部の皆さんが、地球が丸いことを実感できるおもしろい報告をしています。それによると、石狩湾の海岸近くに設置された小樽の大観覧車を、27kmほど離れた海岸から見ると、海面から62mの高さがある直径50mの観覧車の下4分の1が水平線の下に隠れて見えたそうです。これは地球が丸いことを示すだけではなく、地球の大きさを求めることもできる、大変興味深い発表でした。
 

(図1-2)

遠くの観覧車を望遠鏡でのぞいてみる。地面が平面なら、観覧車の根元まで見える(上)が、地球が丸みをもっていると、根元は途中の地面に隠されて見えない(下)(札幌市立札苗北中学校科学部の図をもとに作成)

 
 
 さて、地球が丸いということを最初に唱えたのは、紀元前6世紀ごろ、ギリシャのピタゴラスとその学派の人たちであったとされています。今から2500年ほど前の話です。ピタゴラスは皆さんよくご存知ですよね。そう、あの三平方の定理のピタゴラスです。ピタゴラスは、数学がこの世界のもっとも基本的かつ根源的なものだと考えていました。球というのは数学的に考えてもっとも完全な立体であり、我々の住む大地の形としてふさわしい形であると考えたようです。
 
この時代のことは、文献が残ってなくてよくわからないのですが、遠くの船は船体の下の部分が水平線の下に隠れ、マストだけが見えるということをきっかけに、古代ギリシャ人は地球が丸いことに気づいたという説があります。
 
遠くの船の下のほうが隠れるのが、ほんとうに肉眼で見えたのでしょうか。私は若いころは視力が良かったし、興味もあって、これを確かめたことがあります。ある調査で船に乗る機会が与えられたとき、私はすれ違って遠ざかって行く船をずっと目で追いかけてみました。すれ違った船は、積荷が軽かったためか、船の下部の赤く塗られた部分がかなり多く水面より上に出ていたのですが、遠くなるにつれその赤い部分が減り、最後は赤い部分が水平線の下に完全に隠れるのが肉眼で確認できました。その時、私にも古代ギリシャ人と同じ経験ができたと、とても嬉しく感じたことを憶えています。
 
 ピタゴラスの時代から200年ほどが過ぎると、世界でもっとも偉大な哲学者の1人といわれるアリストテレスが現れます。ピタゴラスの場合、地球の形を球だとしたのは信仰のようなものですが、アリストテレスは地球が丸いという根拠をきちんと示しました。
 
 アリストテレスは、月食のとき月に黒い丸い影が映るのは、丸い地球の影が映っているからだと説明しました。彼は月食のことを当時から正しく理解していたのです。さらに、北や南に移動すると、見える星が変わるということも指摘しました。北に移動するとそれまで見えなかった星が北の地平線の上に現れ、逆に南の空には今まで見えていた星が地平線の下に隠れてしまう。南に移動するとその逆です。当時多くのギリシャ人は船でエジプトまで行ったことでしょう。アリストテレスはギリシャ北部のマケドニアの出身ですが、彼の故郷とアテネとでも、見える星が違うと感じていたのかもしれません。 
 
このように地球が丸いことは、古代ギリシャ人によって発見されました。
 
この発見は以後の科学の発展にとってとても重要なことです。例えば、昔、天体の運行が説明されていた天動説も、地球が丸い天体の1つであるという事がわかってはじめて、その体系をつくることができたものです。いまのニュートン力学の基礎になった地動説はもちろんです。このようなことを考えると、地球が丸いということの発見は、科学史上とても大事な出来事だということがわかるでしょう。
 
 しかし、一般の人にも地球が丸いと認識されたのは、かなり後、15~16世紀の「大航海時代」になってからのようです。コロンブスが大西洋を西に向かって進んだときは、まだ多くの人は、大西洋の端は海水が奈落の底に向かって落ちていると考えていました。マゼラン一行が世界一周の航海を果たして、ようやく地球が丸いことがみんなに認められたと言っていいでしょう。それは1522年、ピタゴラスの時代より2000年後のことです。
 
 では、日本人はいつごろ地球が丸いことを知ったのでしょうか。1549年にフランシスコ・ザビエルが日本にキリスト教を伝えたことは有名ですが、ザビエルが日本を離れた後イエズス会会員に送った手紙に、日本人は大地の球体性などについて盛んに質問をしてくると書いています。つまり、ザビエルはキリスト教とともに地球が丸いという考えも日本に伝えたといってよいでしょう。その後、宣教師ペドロ・ゴメスが日本に作られた神学校で天文学の講義をしたり、宣教師ルイス・フロイスが自分のたどってきた経路を地球儀で示しながら織田信長に説明したという記録が残っています。
 
日本語の「地球」という単語は、これだけで地面が丸いことを意味するとてもすばらしい言葉だと思います。もしかしたら日本人が作った和製漢語かと思って調べてみたのですが、どうも17世紀の初頭に中国で作られた言葉のようです。この言葉が日本でも広まるとともに、江戸時代にも多くの日本人に地球は丸いということが認識されたのでしょう。