地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#2 地球の大きさはどうやって測ったのですか?

Q2. 

サッカーボールやスイカを測るのとは違って、地球は大きすぎるから、地球から外に出られなかった昔の人が地球の大きさを求めるのは、なかなかむずかしかったのでしょうね。地上にいる私たちでも、簡単に地球の大きさを計算できる方法はありますか?

 A2.

 たしかに、巻尺で地球をぐるりと一巻きできれば、簡単に地球の大きさが測れるのですが……。
 
さて、地球が丸いことを発見したのは古代ギリシャ人だと、Q&A 1でお話しましたが、地球の大きさも、紀元前からギリシャ人によって測られているのです。しかも、かなり正確な値が求められています。
 
値を求めたのは紀元前3世紀のエラトステネスです。エラトステネスはギリシャ人ですが、エジプトのアレクサンドリアの図書館長でした。彼は、図書館の書物から、アレクサンドリアの南のシエネ(現在のアスワン)には深井戸があり、その井戸には夏至の正午にだけ水面まで太陽の光が届くことを知りました。つまり、この日の正午には、シエネで見た太陽の高度は天頂(真上)にあることになります。彼は、これを利用して地球の大きさを測りました。

 
エラトステネスが用いた原理。シエネでは天頂(真上)に太陽の光が射す夏至の日に、5000スタジア北のアレクサンドリアでは、太陽は天頂より7.2度南に見えたことから、地球の全周は4万6000kmと求められた(東京書籍高校教科書「地学ⅠB」を改変)
(図2-1)

(図2-1)

 
彼がまず行ったのは、アレクサンドリアでの夏至の正午の時の太陽の高さ(角度)の測定です。平板に棒を立てて、棒と影の長さの比を計ると、三角比から太陽の高度が分かります。この方法で、太陽は天頂より7.2度南にあることがわかりました。次に求めたのはアレクサンドリアとシエネの距離です。これは隊商がアレクサンドリアからシエネに行くのにかかる日数から求めました。その距離は5000スタジアとなりました。スタジアというのは当時ギリシャやエジプトで使われていた長さの単位で、単数形はスタジオンといいます。1スタジオンの長さは177mから185mくらいまで、時代と国によって違うようで、エラトステネスの用いた1スタジオンが何mなのか、正確にはよく分かりません。ここでは184mとしておきます。地球の大きさを求めるには、さらにアレクサンドリアとシエネの位置関係が必要です。エラトステネスは、アレクサンドリアの真南にシエネがあるとしました。
 
これだけのデータがあると、地球の大きさが求まります。図2-1を見てください。これでわかりますよね。5000スタジアが地球全周の360分の7.2、つまり50分の1になり、地球全周は5000×50=250000スタジアになる、これがエラトステネスの求めた地球の大きさです。1スタジオンを184mとしますと、4万6000kmです。現在分かっている地球一周の長さは4万kmです。つまり、彼の求めた地球の大きさは実際に地球より15%程度大きいだけでした。
 
15%も誤差があるのなら、たいした業績じゃないではないかと思うかも知れません。実際、彼が求めた7.2度という角度も、0.1度の桁まで測ったということではなく、全周つまり360度の50分の1という値を求めたというのがほんとうのところです。しかし、科学の暗黒時代であるヨーロッパ中世が終わり、コロンブスがアメリカ大陸を発見したときは、地球全周の長さは、2万9000km程度と考えられていたのです。つまり実際の地球よりずっと小さいものと考えられていました。そのために、コロンブスは発見した陸地をインドだと考えたのです。これが西インド諸島が本物のインドとはかけ離れたところにあるのに、どうして「西インド諸島」と呼ばれているかの理由です。コロンブスはエラトステネスから1500年以上もあとの人です。こうしてみると、エラトステネスが求めた地球の大きさが、当時の技術水準から考えていかに正確だったのかがわかるでしょう。そのために、エラトステネスは測地学の父と言われています。
 
この方法は、現在でも地球の大きさの測定に応用できます。まず、図2-1で太陽の光の代わりに北極星からやってくる光線を考えてみましょう。北極星が真上に見える位置が北緯90度ですので、ある場所で北極星を水平線から見上げたときの高さ(角度)は、その場所の緯度に等しくなります。このことを利用して、同じ経度線上にある南北2点の距離と緯度の差から、地球の大きさを求めてみましょう。たとえば、ほぼ南北にある仙台と盛岡のJRの営業距離は183.5kmです(時刻表に営業距離が記されています)。北極星の高さを測ることにより、駅の緯度を4分の1度の精度で測れたとすると、仙台駅の緯度が38と4分の1度、仙台駅が39と4分の3度で緯度の差が1.5度となります。183.5÷1.5×360=44040km。エラトステネスが求めた値に近いですね。東北自動車道を利用してもほぼ同じ値になります。東北新幹線の実際の距離171.09kmを元に計算しますと、4万1060kmと良くなりますが、ある程度以上離れた所では道や鉄道は直線ではなくなり、どうしても実際より長くなってしまいます。
 
 今はGPS(QandA22)が利用できますから、どこでも緯度は容易にわかります。短い距離で良いなら、南北に走る直線道路も簡単にみつかるでしょう.その道路で距離を車のメーターで測り、GPSで緯度差を求めると、地球の全周の長さが求められます。たとえば、山本明利先生(神奈川県湘南台高校 1998年当時)は、藤沢市から大和市に南北に走る県道を11.8km走って、道の北端と南端とでは緯度が6分16.5秒(角度の1分は60分の1度、1秒は3600分の1度)違うことを確かめました.これだけだと地球の全周の長さは4万0618kmとなりますが、この先生は途中で測ったデータ(図2)も加えて4万0320kmと求めました。
 
 

カーナビで地球の大きさを測る。グラフは神奈川県の県道467号藤沢町田線に沿って、南北に走行したときの、基点からの距離(自動車の距離計で測定)と、緯度(カーナビのGPSで測定)の関係を表す。縦軸は北緯35度からの差。直線関係から、距離14kmあたりの緯度差は29分-21.5分=7.5分=0.125度と読めるので、これから地球の全周は、14km×(360÷0.125)= 40320kmと求められる(山本、1998
図2-2

図2-2

 
 

GPSってすごいですね。ハイテク技術のGPS携帯電話と、伊能忠敬も用いたローテク技術である歩測(歩数を数えて、1歩の歩幅をかけて距離を求める)を組み合わせて、地球の大きさを求めてもおもしろいでしょう。