地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#50 女性にも好かれる測地学へ

Q50. 

この本をここまで読んできて、「測地学っておもしろそう」と思う反面、重そうな測量機材を担いで山に登ったりしないといけないみたいで、女性にはむずしそうです。女性の測地学者もいるのでしょうか? 南極観測隊には女性科学者も参加しているようですが・・・

 A50.

 測地学って男のイメージがありますか? 昔はたしかに男の世界でした。いま、手元に1954年に開かれた日本測地学会第1回講演会の参加者の集合写真があります。100人を超える人が写っていますが、女性はひとりもいません。それから20年後の1973年春と秋の2枚の日本測地学会講演会に参加した人の集合写真を見てみても、やはり男性ばかりです。また、日本測地学会が刊行している学術雑誌『測地学会誌』を見ますと、毎年10編以上の論文が掲載されていますが、その著者の中に1965年から1984年までの20年間、女性の名前が見当たりません。
 
しかし、海外の測地学者に目を向けると、昔から女性が活躍していました。たとえば1995年~1999年の国際測地学協会の副会長はアメリカ・NASAジェット推進研究所/カリフォルニア工科大学のジーン・O・ディッキー博士でした。また、2003年現在,国際測地学協会の地球回転・地球動力学部門の議長はベルギー・王立天文台のヴェロニク・M・デハン博士。いずれも女性です。それなのに、日本ではどうしてこんなに、女性測地学者が少なかったのでしょうね。
 
測地学は、野外での測量や観測データを基礎に、地球の形と大きさやその時間変化などを取り扱う学問です。特に日本は世界的に見て現在の地殻変動が激しいところで、地殻変動に関連した興味深い研究テーマが見つけやすいためか、日本の測地学は欧米にくらべて、理論的な研究よりも、実際に生じた地殻変動に関する研究の割合が多いという特徴があります。そのため、昔からいかにしてよいデータをとるかということが重要視されたのです。
 
よいデータをとるには、重い測量機材を担いで山に登ったりするなど、力仕事が必要な面があります。泊まり込みでの出張も多く、場合によってはテントで寝泊りすることもあり、また、宿といっても現在のようにシングルの個室を多く備えたビジネスホテルがあまりなかった時代には、多くの男性陣のなかに女性が入り込むのはむずかしかったのでしょうし、親もそのような分野には行かせたがらなかったのでしょう。
 
しかし、最近はだいぶ事情が変わってきました。測地学が野外データを基礎にしていることは変わりはないのですが、その機材の軽量化が進みました。また、各地のビジネスホテルも増えて、多くの男性のなかに女性が混じって出張しても、プライバシーが保たれるようになってきました。また、人工衛星が利用できるようになったりしたおかげで、データの取得に力仕事の占める割合が減ってきました。さらに、データ取得にあわせて機材を持ち運びするのではなく、固定点で自動的に連続記録を取得するようになった観測の割合が増え、観測よりもその後のデータ処理やその解釈のウエートが増してきました。そのようなことから、測地学の研究に男女の差がなくなってきて、最近は日本でも女性の測地学研究者の活躍が目立ってきました。
 
日本で実際に測量を行ない地図を作っている機関というと、陸の地図をつくる国土地理院、海の地図を作る海上保安庁海洋情報部が、まずあげられます。いずれも、最近は女性の研究者ががんばっています。その他の測地学関係の研究機関といいますと、各大学のほかに、国の機関では、緯度観測所以来の伝統をもつ国立天文台水沢、直径34mの電波望遠鏡を持つ情報通信研究機構、地震予知や防災にそなえて観測・研究を行っている気象庁、防災科学技術研究所などがあげられますが、いずれも最近は女性の研究者が増えてきています。
 
日本測地学会会員の名簿を見てみますと、現在520名の一般会員と52名の学生会員(おもに大学院学生)がいますが、そのうち一般会員11名(2%)、学生会員8名(15%)が女性です。
 


50-1  女性研究者による、講演数(日本測地学会秋季大会)。子どもの学習曲線によく似ている

 
日本測地学会の講演会では、どの程度女性研究者による発表があるのでしょうか? ためしに最近の秋の講演会のプログラムで調べてみますと、図50-1のように、確実に女性研究者による発表が増えています(2002年は国際会議とつづけて開催されたので、日本測地学会講演会の発表数は例年よりも少なかった)。図50-1のグラフは、増加傾向がいったん頭打ちになってからまた回復しているという点で、特に興味深いものです。これは、子どもの学習効果と同様、成長発達期の人や組織によく見られる傾向だからです。
 
また、日本測地学会が毎年開いている、測地学に興味を持つ学生を対象とした測地学サマースクールの参加者は、最近数年間は3050%を女性が占めており、測地学に興味を持つ若い女性が多くなっています。水準測量の望遠鏡をのぞいて高低差を求めることなどが,特に人気があるようです.
 
今後日本でも女性の測地学者が活躍する場が増えていくことでしょう。
あなたも是非、測地学者をめざしてください。