地球が丸いってほんとうですか?

〜 The truth lies within survey 〜

#31 海底地形を探る

Q31. 

図31-1

 

「海底地形図」というものをはじめて見たのですが、第一鹿島海山が断層で真っ二つにちょんぎられているところだとか(カラー口絵31)。そんな激しい運動がこの地球で起こっていることも驚きですが、どのようにして、あのような詳しい海底の地形図ができるのかも、不思議に思いました。まさか頭のいいクジラやイルカにお願いして測量してもらっているわけはないですよね。

 A31.

陸上の地形を立体的に見せる図のことを「鳥瞰図」というのに対して、カラー口絵31のように海底地形を立体的に見せる図を「鯨瞰図」といいますが、もちろんクジラが作った図ではありません。
 
さて、昔は、海の深さを測るには、ロープの先に錘をつけてそれを海に沈め、感触で海底についたことを確かめて、その時のロープの長さから水深を求めるしか方法がありませんでした。19世紀後半には、この方法で、大西洋の中央部はまわりよりも浅くなっていることが発見されました。これはその後、地下深部から高温のマグマが湧き出し、新しい海底がつくられている大西洋中央海嶺の発見という、プレートテクトニクスにとってきわめて重要な発見につながっていきます。しかし、錘を降ろして海の深さを測っていたのでは、1点の測深だけでもたいへんな時間と労力がかかり、とても海嶺という一つながりの山脈になっていることの発見まではいたりませんでした。
 
20世紀になり、音波を使って海の深さを測るという方法が開発され、実際に使われるようになりました。「音響測深法」と呼ばれる方法です。これは、船から海底に向かって音波(実際は人の耳に聞こえない超音波)を発射し、海底で反射して返ってきた波を受けて、その往復時間から海の深さを求める方法です。この方法により、ようやく大西洋中央海嶺が発見されたのです。
 
しかし、私たちのはなし声が四方八方に広がるように、1点から海底に向かって音波を出しただけでは、海底直下にだけ進むのではなく、前後左右の斜め方向にも広がっていきます。海底が平らだったら、船の真下の海底で反射した波が最初に戻ってきますが、海底が傾いていたり、あるいは崖があったりすると、真下以外のところで反射した音波のほうが先に船に戻ってくることも起こります。そうすると、正しい深さを求めることはできません。
 
そこで、船の真下方向の海底から反射した音波のみを測定できるように、測深機が改良されました。真下方向から反射してきた音波だけを測定する方法には幾通りかあるのですが、よく使われているのは、「クロスファンビーム方式」と呼ばれる方式です。ここで、しばらく図31-1に即して説明を続けましょう。
 
まず、音波を出す複数個の送信装置を船底の船首から船尾の軸方向(前後)に並べて設置し、音波の山と谷(位相)をそろえて音波を発射します。そうすると、音波は船の軸と直角方向の平面内を扇形方向に進みます(図31-1左)。つぎにその音波が海底から反射して返ってきた波を受信します。このとき、受信装置(いわゆるマイクロフォンですが、水中の音波の場合はハイドロフォンと呼びます)を、船底の右舷から左舷方向に多数並べておきます。そうすると、真下以外の海底から反射してきた波は、それぞれのハイドロフォンに到着する時間がずれる、つまり位相がずれます。
 
このことにより真下から反射してきた波が判別できるのです。
 
さらによく考えてみると、この方法は真下から反射してきた波を判別するだけではなく、おのおのの受信装置で得られた信号を比較することにより、進行方向左手から戻ってきた波か、右手から戻ってきた波かが判別できます(図31-1中)。これは、人間が耳に届く音波が左耳と右耳とで微妙に違うことを利用して、音が左右どちらから来たのかを判別するのと同じ原理です(もちろん、脳のなかではきわめて高度な情報処理が行われているはずです)。
 
この原理を利用し、ハイドロフォンで受信した音波にディジタル処理を行ない、ハイドロフォンごとの位相の違いによって、それらの波が海底から戻ってきた方向を判別して、一度にたくさんの(マルチ)斜めの距離を同時に求める方法が開発されています。実際には図31-1より左右に広い扇状の音波が出ますので、水深の何倍もの範囲の深さが一度に求められるわけです。この方法を用いた測深機は「ナロー・マルチビーム測深機」と呼ばれています。船は走りながら、航跡の両側のある幅(水深の数倍に相当する長さ)の範囲について海底地形図を描き出し(図31-1右)、その精度はおよそ20m程度といわれています。
 
さらに、GPSなどによる船の位置や速度のデータもいっしょに取り込み、船が通ったところを中心に、水深の数倍の幅の海底地形図を自動的に船上で書き出す装置も商品化されています。ナロー・マルチビーム測深方式以外にも、海底を画像でとらえることができるサイド・スキャン・ソナー方式のものも開発されています。日本でも、海上保安庁海洋情報部、海洋研究開発機構やいくつかの大学の海洋調査船などにそなえつけられています。
 
多くの調査船に音響測深機が装備されているのは、水深データは、海洋調査のもっとも基本的な資料になるからです。海底地形をもとに、海底火山や海底の断層の存在を知り、火山噴火予知や地震予知に役立たせることもできます。また、重力で海底の下の構造を調べるにも、水深データは必須です。さらに、津波の伝わり方の計算にも、海底地形が必要となります。
 
このように、音響測深機は、海洋域のさまざまな学術調査に使われていますが、そればかりではなく、港湾工事や中部新空港のような海底埋立て工事、さらには沈没船の調査などにも利用されており、みなさんの生活とも密接に関係しているのです。